オクラホマ・ミキサー(JAZZ調)です♪
よろしければお聞きください。別窓で開きます。




 フォークダンスなんて、普通だったら皆、嫌がる演目の一つ。
 だって、手を繋いで踊るのよ!?
 いくら指先が掠めるだけだっていっても、嫌なものは嫌なのよ……。


 ここは体育館。
 もうすぐ体育祭を控えているということもあって、体育の授業以外にも特別に練習時間があてがわれている。
 一限からかれこれ三時間、ぶっ続けで私たちは踊らされていた。
 それも、学園の三年の生徒全員でよ!?
 空気も悪いし、密着してるし、そしてなにより休みがほとんどないってことが最悪。
 一体なんで三時間も踊らされているのかといえば、やっぱり皆嫌がって手を繋がないから、先生たちが怒ってしまっていて。
「ったく、毎日毎日ダンスばっかりいい加減ウザ過ぎだぜ」
 私の手を取りながら文句を言っているのは、同じクラスの宍戸亮。
 つい一週間位前に、長くて印象的だった髪をバッサリ切ってきたから、皆にすごく驚かれていた。
 女の私よりも長い髪だったからある意味憧れていたんだけれど、これはこれで、とてもスッキリしていて彼には似合っていると思う。
 そんな宍戸の投げやりな物言いに、私もため息を零す。
「私だってそう思ってるに決まってるでしょ」
 めんどくさそうに言葉と同時に手を解いた瞬間、目敏くそれを見ていた体育教師から手痛いお叱りの言葉を受ける。
「宍戸、っ! 手を離すんじゃない!!」
 舞台に上って、さらにはマイクまで持って、私たちを監視しているのだから、最低だ。
「おい、手離すんじゃねーよ」
 強引に私の手を再び掴んで、嫌々ながらも踊りだす宍戸。
「だって、宍戸ってば力強いんだもん」
「宍戸、。黙ってやらんか!」
 今度は円を書くようにして踊っている私たちの輪の中から、声が響いた。
 うー、皆して私たちばっかり注意するなんて……。
「もうっ、宍戸のせいで怒られたじゃないの!」
「お前が悪いんだろ!」
「〜〜っ、お前たち! 前に出て二人だけでやりたいのか!?」
 三度目の注意は、それはそれは恐ろしいもので。
「「…………」」
 今度こそ、私たちはしっかりと手を繋いで、文句一つ言わずに踊りだした。
 周りからは、人事だと思っているのか、クスクスと忍び笑いが耐えなかったけれど。





 ハードなメニューが用意されているレギュラー陣の部活もようやく終わり、それぞれ着替えを終えた皆が、壁際に置かれたベンチに座りながら楽しそうに話をしている。
 私はというと、これでもかというほどに大量に使ってくれたタオルを洗濯機にかけたり、放っとくと半日で散らかり放題の部屋を、さっさと片付けていた。
「何か一日中動き回ってた気がする〜」
 トロンとした目をして、ジローちゃんが横になる。
「だよな」
「ほんまや」
 息もピッタリな忍足と岳人の二人は、相槌まで同じだ。
「そういや、宍戸とが随分怒られてたよなぁ」
 こっちはニヤリと皮肉げな笑みを浮かべて、いかにも楽しそうに私を見ていた。
「なによ、文句あるわけ?」
「別に」
 歩み寄る私を難なくかわし、跡部は足を組んでふんぞり返った。
「宍戸さんと先輩、なにかやったんですか?」
 しっかりとネクタイを締めると、長太郎が不思議そうに跡部の傍に寄る。
「こいつらまともに踊らないもんだから、怒鳴られてんだぜ」
「夫婦漫才みたいだったよな〜」
 うんうんと頷きながら、岳人まで笑い出す。
「へぇ、面白そう。俺も見たかったなぁ」
 ……長太郎、あんたまでそんな薄情なこと言う男だったなんて。
 宍戸は宍戸で、三人の会話をまるで無視している。
 私一人がムキになったところで、跡部の楽しみが増えるだけだ。
 それ以上なにも言わなくなった私に関心を失ったのか、跡部も静かになった。


「そういえばさ〜」
 携帯を熱心にいじっていたり、持ち合わせてきたお菓子を食べていたり、日誌を書いていたりと、各々が違った作業をしている最中、ウトウトと目を瞑っていたジローちゃんが、脈絡もなく語りだした。
「フォークダンスのジンクスって知ってる〜?」

「「「「「「……フォークダンスのジンクス?」」」」」」

 樺地くんを除いて、この場に居合わせた全員の声が、見事に揃った。
 というより、樺地くんは無表情のまま、私が洗濯機に放り込んだタオルを取り出しては、干すのを手伝ってくれていたのだ。
「うん」
 ふわ〜ぁっと大きくあくびをして、寝返りを打つ。
 妙なもの言いをされて、皆して次の言葉を待っているというのに。
 放っとくとまた寝てしまいそうなジローちゃんに、忍足が続きを促した。
「なんやの、それ?」
「え〜?」
 もちろん、忍足以外の皆も興味津々。
 あの跡部でさえ、ジローちゃんの続きを気にしているくらいだもの。
「あのね、フォークダンスの曲が全部終ったときの最後の相手がね、もしも自分の好きな人だったら、そこで告白すると両想いになれるっていうのがあるんだよ〜」

 …………アホくさ。

 もっと恐ろしい怪談話を期待していた私は、ガックリと力を落とした。
 なに、ジローちゃん。
 実は乙女な思考の持ち主だったりするの??
 きっと私以外のメンバーも大概興味ないだろうし、絶対に馬鹿にしているんだろうな……と思って、目線を向けると、岳人や長太郎くんならまだしも、忍足や宍戸、それに跡部まで聞き入ってるから拍子抜け。
 意外。
 案外、おまじないとか占いとか、信心深いんだろうか……。
 見慣れぬ光景についつい、笑いが込み上げてきた。
 またこんなことで笑っていただなんてバレでもしたら、ネチネチと嫌味を言われそうだったから、私はこっそりとその場を抜け出して、外でタオルを干してくれている樺地くんのところへ行った。
「ねぇ樺地くん、フォークダンスのジンクスって知ってる?」
 一見すると恐そうな雰囲気のある彼の背中に向って、声を投げかけた。
 樺地くんは黙って振り返ると、声を出さずに首を横に振った。
「だよねぇ。聞いたことないよね?」
「……ウス……」
 どっぷりと日の暮れて闇の広がる空に、綺麗な空色や白のタオルが靡く。
「フォークダンス、嫌だなぁ……」
 誰に言うともなく大きくため息をついて、迫り来る体育祭の日を思い、憂鬱な気分になった。





 芸術管理棟にある音楽科準備室に毎朝の日課になっている日誌受取りに行った帰り際、丁度登校してきた友人の小雪に声を掛けられた。
、おはよっ」
「あ、おはよ〜」
「ね、いよいよ明日だね、体育祭!」
 どうしてこんなに盛り上がっているのかが、謎だった。
「……もしかして、楽しみにしてる、とか?」
「えっ!? って楽しみじゃないわけ!?」
 まるで変なモノを見るような眼差しで、しげしげと顔を覗き込まれる。
「楽しみ!? イヤよ、毎日毎日踊ってばっかりでさ」
「……わかった、あんたは毎日部活で美男子の顔を見慣れてるから、この千載一遇のチャンスすら、ありがたく思えないっていうわけね…」
 突然ホロリと泣き真似をされて、思わずギョッとする。
 美男子!?
 千載一遇!??
「練習でもいいから、あのテニス部レギュラーの誰かと手が繋げるのよ!? もう私、毎日ずっと、永遠に練習が続いてくれたって構わないっ」
 ……あの〜?
 小雪さん??
「それに比べて、は毎日会話もし放題。あのレギュラーの皆の汗の染み込んだプレミアもののタオルを、平気で! なんのためらいもなく洗濯機にほっぽり投げるような、女の風上にもおけないヤツだもんねぇ……」
 話の論点が大分ずれて、小雪は羨むようなジットリとした目で私を見つめていた。
「ダンスの組み合わせパターンがさ、一・五・九組と二・四・八組と三・六・七組って決まったじゃない? それってさ、うちら三組って、あの跡部くんと忍足くんのいる六組と一緒のグループなのよ!? これはもうあのラブ・ジンクスに縋るっきゃないでしょ!!」
「それって、曲が終った後の最後の相手が……とかいうヤツ?」
「そうよ!」
 ものすごい勢いで両手をガッシリと握られて、小雪のあまりの真剣さに言葉を失った。
「曲が終った後に自分が想いを寄せている相手だったら、告白すると両思いに! さらに、キスまでしちゃったらもう、離れたくても離れられないくらいラブラブになるのよ!?」
……!!??
 もし、私の耳がおかしくなければ、昨日ジローちゃんが言っていたジンクスとやらに、更なる脚色が加えられていない!??
 キスって、いったい。
 第一、生徒も先生見ている前で、そんな恥ずかしいことができるわけないじゃない!
 は、恥ずかしい!!
「……小雪? あんた出席番号私の横なんだし、頼むから相手を襲うような真似、しないでよ!」
「なにをっ? するに決まってるじゃない、私跡部さま狙いなんだからね!!」
 その口から出た恐ろしい相手の名前に、身震いをしてしまう。
「バ、バカっ! 跡部や忍足にそんなことしたら、本人のみならずファンの皆に刺し殺されるわよ!?」
 慌てて小雪の口を両手で塞いで、誰にも聞かれなかったかとキョロキョロ辺りを見回した。
「俺たちがなんだって?」

 ギャーーーっ!!

 出て来て欲しくないときに限って、こいつは現れるのよね、本当に。特に跡部!!
「おはようさん」
 うっすらと口唇に笑みを浮かべる跡部の隣では、これまたにっこりと美しい微笑を向ける忍足が……。
 もう、引き攣っているのは分かりきっていたけれど、しらじらしいほど明るい声を上げて、目の前で眩しいほどのオーラを出して立っている忍足と跡部の背中を押した。
「は、早いわね二人とも。こんなところにいたらファンの子達に捕まるわ! さっさと教室に戻んなさいよっ!!」
 惚けてる小雪を尻目に、とにかくさっきの話をこれ以上聞かれないようにとありったけの力を込めて二人を追いやった。
 私がレギュラー陣に対してそっけない態度を取っているのは、やっぱり他の女の子達の想いが分からなくもないからで。
 そうでなくても私のやっているマネージャーというポジションは、ものすごい倍率が高い。
 彼らのそばに少しでもいたいから……とかいう理由で希望する子が大多数だけれど、そこはそれ。
 やっぱり見る人が見れば、

 マネージャーに就きたいのか、

 レギュラーの傍に居たいのか。

 そんなこと、簡単に分かってしまうようだった。
 そもそも、これといって入りたい部活動もなくって、なんでもいいからという理由で探していたとき、一年の頃同じクラスだった忍足が、「マネージャー募集してるんやけどどう?」と誘ってきたのがきっかけで。
 当初はそれなりに、かなりの嫌がらせを受けたこともあったけれど、今では私がメンバーに変な感情を抱いてないと分かったせいか、全くそういったことがない。
 だからこそ、小雪がそんなとんでもないことをしでかして、昔の私みたいに陰湿な嫌がらせを受けるっていうことになったら、本当に嫌だろうと思うから。
 ただ、それだけのこと。




「ラブ・ジンクス…?(後編)」へ。





……中途半端な箇所までのUPで申し訳ございません;
しかも、忍足くん夢小説なのに、出番無いし(汗;)
後半は只今執筆中です。
告白シーンまでもうちょっと…!と言う辺りまで来ていますので、
もうしばらくお待ちいただけると幸いです。

それでは、今回もここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。


2003/4/19


Copyright(c)2003 Koto Sasakawa all rights reserved.