空が白みはじめる午前五時をほんの少し回ったころ。
壁にもたれかかりながら、永瀬麻澄はようやく自宅へと辿り着いた。
「……眠い」
新入生歓迎会という名目の飲み会へと借り出された麻澄は、苦手な酒を一晩中、嫌というほどに飲まされたのだ。
断る余地などあるはずがない。
というよりも、そんな言葉に耳を貸すような者は誰一人としていなかった。
次々と酔いつぶれていく後輩を酒の肴にしているかのように、容赦なくグラスに注いでいくのである。
――酒を。
ポケットを探りながらのろのろと鍵を取り出し玄関のドアをあけると、雪崩れこむようにして中へと入る。
もはやベッドへ行くことさえ煩わしく思った麻澄は、靴を脱ぐのもそこそこに気を失うように倒れると、そのまま静かな寝息を立てながら眠りについてしまった。
かすかな音が聞こえた気がした。
夢うつつの意識の中で、麻澄はふと思う。
しかし眠気に勝つことは到底できそうもなかった。
再び眠りに入ろうとする麻澄の耳に、もう一度音が届く。
「ん……うるさい……」
甲高い音は心地よい眠りの時間を妨げるように鳴り響く。
気づいてから五度目の呼び鈴に、麻澄はとうとう根負けをしてしまう。
壁に備え付けてある受話器をもぎ取り、不機嫌な口調で相手を確かめた。
「はい」
遅れてモニタに目をやった麻澄は、寝ぼけ眼を擦りながら自分の目を疑った。
!??
そこに写っているのは、年の離れた麻澄の最愛の恋人、宮園瑛の姿だったのだ。
「おはよう、麻澄」
「あ、おはよう」
突然の訪問とあまりにも自然な挨拶に戸惑いながらも、麻澄はエントランスの自動ドアを開ける。
瑛はごく自然のことのようにそこを通り抜け、待機しているエレベーターへと乗り込んだ。
玄関に散乱している靴や鞄を大慌てで片付けると、麻澄は慌てて洗面所に向かった。
「やばい、もう来ちゃうじゃんか!」
鏡を見つめて、とりあえず見られても大丈夫な顔つきになったことを確認すると、ほっと胸をなでおろす。
同時に、再び玄関の呼び鈴が音を鳴らせた。
「はいはいっ」
扉を開けた麻澄の目の前に現れたのは、小さな花束。
その後ろから、瑛は顔だけをひょっこりと覗かせた。
「お迎えにあがりました」
まるでどこかの御付の執事のような口ぶりに、麻澄は思わず吹き出してしまう。
「笑ったな」
「だって、似合わないことしてんだもん。映画じゃあるまいし」
いつまでも腹を抱えて笑っている麻澄に対し、瑛はさらに気取った口調で付け足した。
「ではお嬢様、靴をお履きになって私についてきてくださいますか?」
右手を差し出されて言われた麻澄はさらに笑いながら、その手をとった。
「喜んで」
以前はこのように女扱いをされることを極端に嫌がった麻澄だったが、今となっては別段気にすることもなくなった。
逆にこうしてあれこれと気をつかってもらえたり喜ばせてもらえることが、嬉しく感じてしまうほどなのだから。
「な、なんだよこの車っ!」
マンションの入り口の植え込みの陰に隠れたところに、一台のダークグリーンの車が停車していた。
ロングノーズが印象的なすらりとしたボディに、ダークレッドのツーシーター。
それだけならば麻澄も声を上げるまではしなかっただろう。
だが、その目に飛び込んできた車には、屋根がついていなかったのだ。
言うならば典型的なスポーツカーというものに属するだろうか。
あまり日本では目にしないような、オープンカーという派手なタイプの。
「麻澄を乗せたかったから」
助手席のドアを開けて麻澄を座らせた瑛は、真新しい車にエンジンを入れ、まだ車どおりの少ない公道を勢いよく駆け抜けていく。
「これ、すっごい恥ずかしいんだけど」
頭上をかすめていく風に髪を押さえながら、隣でハンドルを握る瑛へ声をあげる。
「しかも目が痛いっ!」
ハードのコンタクトレンズをしている麻澄の両目からは、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていた。
顔を覆う麻澄の手を、空いている片手で掴んだ瑛は、胸元からサングラスを取り出して持たせた。
「それをかけたら、少しは平気だろう?」
「……ありがとう」
寝不足の頭と目に染みる朝陽を遮るためにもと、急いでかけようと広げたサングラスだったが、そのデザインに再び麻澄は声を上げることとなった。
「な、なんだよこれっ!」
そう。麻澄がイメージしていたサングラスとは似ても似つかぬその形は、海外で活躍をしているサッカー選手や野球選手、レーサーといった人たちが愛用しているオークリーのものだったのだ。
ただでさえ濃緑色の奇抜な車に辟易しているというのに、これ以上に目立つものがあるとは。
――絶対に瑛のセンスはどうかしている!
胸中では想叫んでいても、実際風が目に入ってくると涙が止まらない。
「うーっ」
唸りながらもしぶしぶサングラスをかけた麻澄は、なるべく人目につかないようにと、シートに深く腰かける。
できることなら今すぐにでも車から降りてしまいたいと思っている麻澄を尻目に、ステアリングを軽快に指で叩きながら鼻歌を歌っている瑛。
前方を見つめるその横顔には、麻澄のかけているグレー系のジュリエットとは色違いのルビーカラー。
自分のレンズがあれでなくてよかったと、ひそかに胸をなでおろしていた麻澄だった。
走っているにもかかわらず、ずいぶんと静かなエンジン音に導かれるように、麻澄の瞼がゆっくりと閉じられそうになる。
日差しは柔らかく、小春日和の陽気に包まれていた。
高速を乗り継いで向かっている場所は、麻澄がテレビで見かけて以来ずっと行きたいと言っていた、ワインや地酒の製造販売を一貫して行っている店だった。
もともとアルコールに強くない麻澄がこういった店に興味をもつのも珍しいことだったが、可愛い恋人の願いならばできる限り答えてやりたいと思うのが、年上で、恋人でもある自分の役割でもあると自負している瑛である。
たとえデートで睡眠時間が減ってしまったとしても、麻澄の笑顔を見れるならば構わない。
瑛自身、こんなに恋人に尽くすようなタイプだとは思ってもいなかった。
麻澄とである前までは、むしろ年上の女たちから可愛がられる傾向にあったほどなのだ。
「本当に……以外だったよな」
隣で気持ちよさそうな寝息をたてている麻澄を優しい眼差しで見つめながら、瑛は小さな声で呟いた。
料金所へ降りるための緩やかなカーブを抜け真っ直ぐに車を走らせると、すぐに店の看板が姿をあらわした。
平日のせいもあってか車通りは随分と少ない。
草蔓と春の花々が編みこまれているアーチの下を通り抜け、こじんまりとした駐車場に着くと瑛は車を停めた。
時刻は九時を回っていたが、店のシャッターは閉ざされたままだ。
自分で目を覚ますまでは静かにしておいてやろうとなるべく音を立てないようにして、瑛は車から降りる。
欧州ののどかな片田舎にある一軒家を思い出させるような外観の建物の周りを、ゆっくりとした足取りで歩く。
小さいながらも、酒を製造するのには欠かせない設備や環境をしっかりと持ち合わせていた。
一般客用にだろうか。
いたるところに湧き水を汲み取れるような小さな井戸が作られていたり、可愛らしい風車や水車も回っている。
しばし周囲を探索して正面へ戻ってきた瑛は、店の入り口へと足を向けた。
【Open at 10:00 - Closes
at 8:00】
そう書かれた立て看板の下に、かすみ草で囲まれた小さなプレートが置かれている。
【Closed Today..........】
「冗談だろう?」
二時間以上車を走らせてようやく着いたというのにこの仕打ち。
明かりの灯っていない店内を窓越しに覗いてみた瑛だったが、人がいる気配を感じられるはずもなく。
駐車場に車が一台もないということが、そのことを明確に裏付けていた。
「参ったな」
どうしたものかと考え込む瑛の傍らに、眠そうに瞼を擦りながら麻澄がやってきた。
「ごめん、オレ寝ちゃってた」
「よく眠れたか?」
細い猫毛の麻澄の髪が、ふわふわと風に揺られている。
瑛が手櫛で優しく梳くと、麻澄はくすぐったそうに微笑んだ。
「せっかく来たのはいいんだが、どうやら定休日みたいだ」
「え?」
その言葉ではじめて、自分のいる場所がどこなのかを確認する。
「ここって、もしかして……」
見覚えがある外観に、麻澄は隣に立つ瑛の顔を見つめる。
「来てみたのはいいんだが」
小さな音を立てる鈴のついたプレートを麻澄に手渡す。
「休み?」
「ああ」
失敗した――といった面持ちでいる瑛を見つめて、麻澄は小さく微笑んだ。
「あのね、実はオレが行きたがっていたところって……」
言葉を途中で飲み込んで、瑛の腕を引っ張り出す。
「麻澄?」
他に開いているところなどなかったはずだが。
見回った場所を思い起こしながらも、瑛は黙って麻澄の向かっている先についていった。
いくつかある水車の一つに、先刻は気づくことができなかった屋根のついたものがあった。
水が溢れ出しているカランの部分には小さな羽根を広げた天使の像が一体、店のアーチと同じような花と蔓に囲まれながら、優しげな面持ちで腰かけている。
店の雰囲気によく似た、おとぎ話に出てきそうな一場面をかたどったかのような場所だ。
「瑛、この水飲んでみてよ」
促された瑛は、足元に注意しながらしゃがみこむ。
「飲んでも平気なのか?」
仕事柄、どうしてもこういった自然物に気をつかってしまう瑛である。
自分はもちろんのこと、麻澄まで体調を壊してしまってはという心配からであったが。
「大丈夫だよ。レポーターの人だって飲んでたし」
麻澄は静かに溢れ出てくるカランの先に手を差し出し、水を汲み取ると口元へ運んだ。
「ん、おいしい」
ひんやりとした地下水独特の味わいが、麻澄の口腔に広がる。
わずかに甘味をおびているような柔らかさもあった。
「おいしいだろ?」
「そうだな」
同じようにして口に含んだ瑛の横顔を見つめ、麻澄は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ここの水、疲労回復にいいって言ってたんだ。まあ科学的な根拠とかはとくにないらしいんだけど、疲れが取れるとかって評判なんだって」
ハンカチを瑛に手渡した麻澄は、そのまま天使の像へと指先を伸ばす。
「本当に用事があったのはこっちだったんだ……」
面と向かって言うことに照れくささを感じていた麻澄は、瑛の顔を見ぬまま告げる。
視線は指先へと向いたままだ。
「だから、か」
麻澄の言葉を耳にした瑛は、心に引っかかっていた疑問が解けたことに、なにより麻澄自身の心遣いに対し、素直に嬉しい思いが込み上げていた。
手を拭い終えた瑛が上げた目線の先にいる麻澄は、優しい手つきで像を撫でている。
麻澄の心内を理解し切れていない瑛は、万人に向けるかのような笑みを浮かべる天使に触れ、 見つめたままでいる麻澄の指先を絡めとると、もう片方の手で腰を抱き、やや強引に自分の胸へと麻澄を引きずり込んだ。
――すべてを。
麻澄が見つめる、触れるすべてのものに。
まるで籠の中の小さな世界に閉じ込められている鳥のように、自分だけを見つめ、自分だけを頼りにしてほしいと。
それ以外のものには欠片の愛も与えてほしくないと。
子供じみたような独占欲を露にするかのように。
「わっ……!?」
囲いの淵に立っていた麻澄は、瑛の突然の行動にバランスを崩してしまう。
水がはねる音が辺りに響いたかと思うと、麻澄は片足を囲いの中に滑らせてしまった。
「濡れちゃっただろ」
言葉の通り、麻澄の靴の中は水浸しである。
「――なら、もっと濡れてみるか?」
言葉に違った意味合いを含み、麻澄を誘う言葉を投げかける。
いつもの麻澄であれば、こんなセクハラじみた言葉でなびくはずはなかった。
そう、いつもの彼であれば。
「……馬鹿」
強引な抱擁、自分を見つめる視線、服越しに感じる鼓動。
それらに応えるように、麻澄は白い頬を薄く染めながら、瑛の首へと腕を回した。
随分と久しぶりに交わす互いの口付けは、優しく、甘い。
幾度も麻澄の下唇を啄ばんで、瑛は吐息ごと飲み込むように顔を傾けた。
「んっ……」
次第に深くなっていく口付けに、麻澄は瑛の背中を叩く。
「人、来ちゃうよ……」
ささやかに抵抗してみるものの、鼻腔をくすぐる瑛の匂いに酔う。
まるで甘く動きを鈍らせる媚薬のように、それは麻澄の脳内にまで浸透していった。
瞳を潤ませて瑛の身体に縋り腕を引く。
「好きだよ、瑛」
温かな胸に顔をうずめて、小さく囁いた。
「車に戻ろう」
もう一度口唇をあわせると、今度は瑛が麻澄の腕を引いた。
日の光を浴びて反射している濃緑色の車に乗り込むと、瑛はサイドシートを押し倒した。
されるがままに身をゆだねていた麻澄だったが、上を向いた途端に降り注いできた眩しさで我にかえる。
「ち、ちょっと待った、瑛っ!」
再び口唇をふさごうとする瑛の顔を慌てて押さえながら起き上がる。
「なんだ?」
「こ、これじゃあやばいって」
麻澄の突然の慌てように、瑛は怪訝そうな面持ちになる。
「麻澄?」
頬を赤く染めながら続きを告げようとする麻澄の髪をそっと撫で上げ、瑛は顔を覗き込んだ。
「屋根、くらい」
その言葉を耳にしてはじめて、外からまる見えだったことに気づく。
さすがにこの状況下では、人の目を気にする性格の麻澄が黙っているはずがない。
「悪い」
麻澄の言葉の意味を察した瑛はキィを回してエンジンをかけ、右手でセンターコンソールパネルにあるソフトトップのボタンを押した。
車内は徐々に薄暗くなっていき、そこには奇妙な閉鎖感が生まれる。
スモークのかかったウィンドウまで閉じられた車内はよほど注意深く覗き込まない限り、外側からは様子を伺うことができなくなった。
エアコンも回しておこうかと考えた瑛だったが、なにかの拍子に動き出したら危険である。
しばし逡巡したが、結局エンジンを切ることにした。
静かになった車内には、衣擦れの音が響く。
助手席側へと身体をずらした瑛は、上に覆い被さるような体勢をとると、目の前にある麻澄の顔に手を伸ばし髪をかきあげ、今度ははじめから深い口付けを交わす。
「ん……っ」
麻澄は夢中で瑛の口唇を、舌を受け止めた。
その心地よさからわずかに腰が動き出してしまうが、昂ぶる欲望を抑え、執拗に舌を絡ませあった。
「はぁ……っ」
どちらが自分の舌なのか。
熱さともどかしさで分からなくなっていく。
麻澄の脳裏にわずかに残されている冷静な部分が、屋外での情事に対する警笛を鳴らしていることは気づいていたが、それでも目の前の快楽を追わずにいられなかった。
「んんっ……」
シャツを上にめくられ、キスの心地よさと瑛の温もりに感じて硬くなっている乳首へと触れられる。
舌で、口唇で、そして指で。
縋るものが見つからず、麻澄は瑛の背中へと腕を回した。
快楽に溺れはじめている自分の顔を隠すかのように。
「ふっ……ん」
その快楽をさらに引きずり出すため、瑛は麻澄の下肢で息づきはじめているものへと手を伸ばした。
ジッパーは瑛の骨ばった手によって下ろされ、下着の中で続けられる惜しげもなく与えられる心地よさに流された麻澄のペニスはぬめりを帯びはじめた。
両足に絡まったままでいる麻澄のジーンズと下着を器用に剥ぎ取った瑛は、その手で、露になった麻澄自身を奏でるような優しい手つきで触れる。
そんな瑛の仕草に感じてしまった麻澄は、漏れそうになる快楽の言葉を必死に飲み込んだ。
瑛の思い通りになるものかとのささやかな抵抗心であったが、そんな強がりがいつまでも続くはずもなく。
「ん……! ああっ!」
施され続ける緩急のある巧みな手淫に、麻澄の理性はあっけなく吹き飛んだ。
わずかに腰が浮いた後、麻澄の両足は耐え切れずに震えを伝える。
生暖かい白濁が瑛の手から滴り落ちるのを目にしてしまった麻澄は、気まずそうに表情を曇らせた。
「ごめん……」
うつむいて恥じる麻澄の姿が愛らしくてたまらないといった様子で、瑛はその指を後孔へと滑らせ、きつく窄まった箇所を撫であげた。
「っ……」
言い知れぬ甘美なうずきが麻澄の身体を駆け巡り、再び震えが走る。
そのまま右足を抱えあげ中指を潜りこませた瑛は、多少の抵抗を見せる後孔を緩めるために、再び麻澄のペニスへと手を這わせた。
「っ……んっ!」
緩く、強く……根元から先端へ、余すところなく惜しげもなく快楽を与えた。
麻澄の気がそちらに向かっているのを見て取ると、さらに人差し指を押し込んだ。
「ん、っ!」
抜き差しを繰り返すだけの単調な動きから、二本の指を少しずつ広げて内壁を抉り広げるような動きへと変えていく瑛の指。
「んんっ……あっ……!」
一方的にもたらされる快楽に追いつかない感情からか、麻澄の目から涙が零れた。
だがそれは苦痛からくるものでは決してない。
双眸を伝い落ちる涙に舌を這わせ、瑛は麻澄の目元に、口元に口付けを落とす。
漏れる吐息は熱く絡まりあうばかりだ。
麻澄の舌を優しくつつき、瑛は啄ばむキスをなんども繰り返す。
後孔からそっと引き抜かれた指は、ダッシュボードの中に置かれていたスキンへと伸び、自らの滾ったものにそれをつけると、麻澄の後孔へゆっくりと押しこんだ。
「ふ……っ、んんっ!」
瑛の身体の重みを強く感じ、胸元につきそうなほどに片足を抱え上げられるという無理な体勢からか、麻澄の身体は一瞬にして強張った。
「麻、澄……っ」
それに伴った唐突な締め付けに耐えきれなかった瑛は、たまらずに上ずった声をあげた。
異物を拒むかのように迎えるかのように、柔らかな蠢動を続ける肉壁の心地よさ。
少しでもその快楽に身を委ねていたい思いから、瑛は動きを緩慢にした。
自分の身体を巡る波が穏やかになったことに気づいた麻澄は、きつく閉じていた瞳を開いた。
シートに背を支えられ、前からは瑛の身体にさえつけられる。
間にある麻澄のペニスは、焦らされているせいか透明な滴りをみせていた。
「んっ、瑛……」
瑛の首筋へと手を這わせ、麻澄はさらなる快楽を乞う。
「激しくして、いいから」
――セックスをするといつだって最後は自分からねだってしまう。
こんな姿を目にして、呆れてはいないだろうか。
互いの身体は深く繋がりあっていたとしても、心の中まで探ることはできはしない。
不安ともどかしさをごまかすために、自分が更なる愛と快楽をねだっていると、気づいているのだろうか。
せめて身体で瑛の気持ちが分かるのならば。
そんな思いを胸に抱きながら、麻澄は意識的に身体に力を入れ、最奥にいる瑛自身を感じ取ろうとする。
「よ……うっ……」
甘えて、縋って。
――子供じみた馬鹿げたことをしてしまうほど、瑛が好き。
心の不安と自分の弱さを打ち消すかのように、麻澄は瑛を煽った。
温かな締めつけを繰り返す肉壁のえもいわれぬ心地よい感触。
自分を必死にくわえ込もうとする麻澄の姿を目にし、感じた瑛は、ゆっくりと限界まで引き抜き、一息に腰を進めた。
「あぁ……っん!!」
動きにあわせて車が不自然な動きを見せ、ウィンドウの内側は二人の呼吸、汗によってスモークとは反対の白い色に曇っていった。
ゆっくりとした快感から激しく押し寄せてくる快感へ。
瑛の動きを受けながら麻澄はその肩に顔を埋め、ともすると今にも飛んでしまいそうになる意識を懸命に留めた。
だが、淫猥な音は否応なしに車内に響き、耳元には瑛の僅かにあがった息が吹きかかる。
珠のような汗が、互いの顔を伝い落ちた。
「も、う……っ」
麻澄の最後の訴えを聞き届けた瑛は、今にも弾けそうになっている麻澄のペニスに手を伸ばす。
「や……っ、駄、目っ……!」
親指で輪を書くように先端を撫で上げ、タイミングを見計らっては強く握り締める。
共に絶頂を迎えるために、瑛はいっそう強く麻澄を突き上げた。
「あぁ、んっ……!!」
麻澄が全身を硬直させた瞬間、内壁が急激な収縮をみせ、瑛自身を締めつけた。
瑛に回されたままでいる麻澄の腕にも力が入る。
「……っ」
無意識にけいれんを繰り返す肉壁に堪えきれなくなった瑛もまた、麻澄の身体奥深くに精を放っつ。
スキンを通してでも分かるほどの熱い感覚が、麻澄のなかを走った。
荒い呼吸を繰り返す麻澄を優しく抱きしめ、瑛はそっと口唇を重ねながら、繋がっている部分から自らを引きずり出す。
「んっ……」
吐精し力なく瑛に抱きついていた麻澄は、再び訪れた異物感に甘い声を漏らした。
「大丈夫か?」
無理な体勢でおよんだ情事によって麻澄に負担がかかったのではないかと気にかけた瑛に、麻澄は小さな笑みを向けた。
服装を整え、落ち着きを取り戻した瑛が時計に目をやると、午後の一時近くを示していた。
昼過ぎに母親からの呼び出しがあったことを思い出した瑛だったが、それもすぐに気にかけなくなった。
――どうせくだらない見合い話だ。
疲れる話のために時間を割くくらいならば、可愛い恋人と共に過ごす時間を大切にしたい。
それがなかなか実現できないからこそ、一緒に入れる時間くらいは大事にしたい。
瑛もそれなりに、麻澄とのこと、母親とのことで悩んでいた。
もうずっと長く。
車のエンジンを入れ、エアコンのボタンへと手を伸ばす。
心地よい冷ややかな風が、火照った瑛の身体を静めはじめた。
隣で寝息を立てている麻澄を見つめ、瑛は思う。
いつまで欺き続けなければならないのか。
いつになれば、麻澄と二人だけの幸せな時間を共有できるのか。
シートに深く倒れこみ、そっと瞳を閉じる。
今だけ。
今の、このひとときだけ。
麻澄とともにいられるこの時間を邪魔するものが現れないことを、瑛は願った。
end.........

なにかが違う……。
改稿して読み直しているうちに、どんどんそんな考えが過ぎってきて。
これでいいんだろうか。
私の書きかたってこんなだっただろうか。
そんな堂々巡りに陥ってしまいました。
結局なにも解決しないまま、とりあえず書き上げては見たものの、納得できず。
視点が大分変わっているんです。
お読みになった方々にはすぐにお分かりかと思いますが。
私の書きかたって、いつからこんなになってしまったんだろう。
これでは読みにくい! 昔に書いたものの方がよかった!
そんな思いを抱かれた方、いらっしゃいましたら、
web拍手の方でも構わないのでひとこと送ってみてください。
自分でもよく分からないのです。
どうしてしまったんだろう。
2004/10/22
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