他人からなにを言われようと、気にする必要もなかった。
 自分に、関わって欲しくもなかった。
 とにかく、ずっと一人でいたかった。
 悲しい、辛い想いをするのは、嫌だから……。





 開け放たれたカーテンの隙間から、わずかな月明かりが差し込んでいる。
 蒼白い光に照らされて、白とグレーが基調となっている部屋の家具が淡く輝いていた。
 人の気配はあるものの、室内に明かりは灯されていない。
 静かな部屋のベッドには、一人の青年がうつむいて腰掛けていた。
 きつく眼を閉じ、その表情はあきらかに戸惑い、曇っている。
 シーツを手繰り寄せそっと顔の傍へと持っていく。
 シルク生地の手触りの良いそのシーツはしっとりと肌に馴染み、心地よささえ生み出した。
 しかし、頬を寄せている青年の美しい双眸からは、もう出るはずもないと思っているにも関わらず、とめどなく幾筋もの涙が流れだしていた。
 嗚咽を堪えている苦しげなその表情は、見ている者の心まで、悲しみの気持ちで包み込む。
 他には誰の気配もないその部屋にはただ、悲しみの声が響いているだけだった……。



next.....「君に声が届くとき(1)」





プロローグです。
章に分けて、それぞれのお話を書いていこうと思っております。
主人公の名前すら出てきていませんが、それは次回……。
長編になっていく予定なのですが、お付き合いいただけると嬉しいです。


2004/1/28



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